農産加工の実績と経験から工業レベルでエキスを抽出

宮崎県農協果汁株式会社 研究開発部部長
坂谷 洋一郎

1998年 宮崎大学大学院農学研究科修了
1998年 宮崎県農協果汁株式会社入社
2000年 研究開発課配属
2016年 研究開発部部長

日向夏の勉強会を通して可能性を実感

宮崎県農協果汁は、原料を地元の農家から仕入れてジュースを製造し、農産物の果汁を販売してきました。日向夏を使った製品も数多く手がけてきましたが、機能性のある高い付加価値の製品には取り組めないでいました。そんなときに、大学の知的財産を企業とマッチングさせる「株式会社みやざきTLO」から、2008年に「日向夏研究会」に誘ってもらいました。当初は、日向夏に骨の代謝を助ける成分があるといわれても、その機能に関して半信半疑でした。しかし、一緒に日向夏のことを学びながら、医学部で行ってきた動物実験での研究成果などを教えてもらうにつれて、成分に対する可能性を実感しはじめました。
そこで宮崎大学の特許が認められた2011年に、「日向夏みかんを利用した骨代謝改善剤」について、特許実施許諾契約を締結しました。共同研究を開始するに当たって、タイミングよく、宮崎県の環境リサイクル補助金事業の認可が下りたことも大きな後押しになりました。

日向夏の搾りかすからエキスの抽出に着手

宮崎県の補助金をもらってから、日向夏の搾りかすからエキスの抽出が、工業レベルで可能かどうかの試行錯誤が始まりました。日向夏の機能性成分は水溶性だということが分かっていましたので、これまでの農産加工のノウハウから、当社が持つ抽出設備や搾りかすを細かく砕く設備、遠心分離機などを使って抽出できることはイメージできていました。しかし、単純にエキスを抽出するといっても、より多く成分が取れるような抽出法を考えないといけません。酵素を使って日向夏の搾りかすの繊維をより細かくしたり、酵素の反応の温度を変えるなど、試行錯誤を繰り返しました。また、ジュースとして販売するには、賞味期限もつけないといけません。試作品をつくり、6カ月間たっても商品に変化が起きないかの賞味期限テストなども同時に行いました。

味への挑戦!美味しいジュースにするために

成分を抽出しただけのエキスはにごりがあるものでした。このにごりが苦みの元だったので、珪藻土を使ってろ過し透明にすることで、ある程度の苦みを取りました。さらにエキスの濃縮度を上げて高濃度濃縮エキスに精製。苦みを取るなどの精製過程を経ても、骨の代謝に役に立つ成分の値に変化は見られなかったので、このエキスを使ったジュースでモニタリングを行いました。しかし、骨の代謝を助ける成分が入っているといっても、渋い、酸味が強いなどのネガティブな意見が多数見られました。モニタリングで出たネガティブ意見を解消するために、今度は活性炭を使って色を抜いてみました。色を抜くことでさらに雑味がなくなりました。
また、味の調整にもこだわりました。自社製品に果汁100%のものはあるので、これとは少し味が変わるように作ってみたところ、酸味が強すぎるものになりました。そこで、脱酸処理をした日向夏果汁とストレート果汁を合わせて調整したことで、味が濃いのに酸味がまろやかで飲みやすい、現在の商品ができました。
自社製品だけでなく、他社の製品も請け負って作っていることもあり、果汁の扱いには慣れています。果汁の濁りをとる、酸味をとるなどのノウハウが、いろいろなところで生かされた、これまでにないドリンク「毎日おいしく日向夏」が誕生しました。

これからの日向夏への挑戦とは?

現在「毎日おいしく日向夏」のヒト試験を行い、機能性表示食品の申請を宮崎大学と一緒に目指しています。「毎日おいしく日向夏」は、1日1本で骨の代謝を助けるのに十分な量になっていますが、有効成分だけを濃縮している訳ではありません。ジュースから有効成分だけ取り出して、粉末エキスにできるとさらにいろいろなところに使えるようになります。当社が付き合いのある所との提携の幅も広がりますし、日向夏が骨に役に立つというイメージがつくと、日向夏の需要がさらに伸びると思います。付加価値のある製品をつくることで、最終的に日向夏の販売量が増加し、生産者に利益が還元できるようになるのが理想ですね。

インタビュー一覧