農協果汁の生産システムと大学の研究成果を結び付けてブランドに

宮崎大学 産学・地域連携センター 産学・地域連携部門長 准教授
小林 太一

生研機構特別研究員
鹿児島大学大学院連合農学研究科修了
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDOフェロー
株式会社みやざきTLOを経て
現在、宮崎大学産学・地域連携センター准教授

宮崎大学が持つ特許と民間企業のニーズをマッチング

宮崎大学の産学・地域連携センターは、産学・地域連携、知的財産および機器分析支援の3部門と地域デザイン講座から構成されています。「世界を視野に地域から始めよう」というスローガンを掲げ、社会・地域貢献にも取り組んでおり、私は主に産業界と大学の連携のコーディネートをしています。
大学が持つ特許や技術を生かしてみませんかと、こちらから提案することもありますし、企業からの技術的な相談を受けることもあります。特許を企業に移転する技術移転もあります。いろいろな形で、大学のシーズと企業のニーズをマッチングしているともいえます。世の中の流れや大学の研究を見ていますので、日々活動している中で、いろいろな分野の情報が耳に入ってきます。ちょうど大学が法人化したぐらいの年ですが、医学部産婦人科で、地域資源である日向夏で研究を進めてきたチームが、骨代謝改善という機能を見出しました。

日向夏の勉強会を通して可能性を探る

宮崎県農協果汁からは、日向夏のジュースを作っているけど、だぶつきがあるという話を聞いていました。売れるために何をしないといけないか?と考えた時に、日向夏には骨代謝にいい成分があるという研究結果が出てきたんです。そうはいっても、本当にその研究成果を使って、商品化する価値があるかを企業側も考える時間が必要でした。そこで、日向夏のことをもっと知ってもらうための勉強会「日向夏研究会」を発足しました。勉強会を進めていく間、2011年に「日向夏みかんを利用した骨代謝改善剤」で特許権利化が実現しました。
勉強会を通して日向夏の可能性を理解してもらい、大学と企業とのいい関係づくりも進みました。2011年に特許が取得できたこともあり、同年、宮崎県農協果汁と実施許諾契約を結びました。ここから、機能性などの付加価値がある商品開発と、日向夏の搾りかすをなんとかしたいという思いを実現する研究がスタートしました。ちょうど運よく、県の「環境リサイクル技術開発支援事業」の補助金が取れ、研究のスタートダッシュもできました。

好タイミングの連続で、順調な滑り出しがかなう

3年間、日向夏研究会でお互いに日向夏を通して関係を築いてきましたし、特許の権利化も実現、補助金が取れて研究資金も入るという、いいタイミングが重なって、関わっている私自身も盛り上げるしかないという気持ちになりました。
この段階では、日向夏の骨の代謝に役に立つ成分は、水溶性で糖類ということしか分かっていませんでしたが、食品加工するには水溶性のもののほうが取り扱いしやすい。もしかしてブレイクスルーするかもしれないという予感もしてきました。
2011年の特許権利化段階では、成分の特定ができていませんでした。県の補助金を使って分析を多方面からやってみても、成分の分析だけはなかなかできなかった。とはいえ、機能性をうたうには、成分分析していないと難しい。コーディネーターとして県内はもちろん九州内まで成分を分析できる人をあちこち探した末に、宮崎大学の工学部にいたんです。それが林先生と宮武先生でした。分析をするための資金がさらに必要でしたが、ちょうど農林水産省の競争的研究資金制度の補助金も獲得することができました。

日向夏の成分はアラビノガラクタン

農林水産省の補助金が出たことで、成分はアラビノガラクタンだということが分かりました。ヒト試験を行って、この成分が確かに人の骨の代謝にいいという、ポジティブデータも揃ってきました。日向夏の成分についての基本的なデータがここまで揃えば、論文などと一緒に骨に役に立つドリンクですという売り方はできるぐらいになりました。ですが、当時の宮崎県農協果汁は、きちんと機能性について表示をしたい、本気で売りたいと言われました。だからこそ時間はかかっても、機能性表示をしっかり掲げて売るために、こつこつと試験を続けています。
ちょうど2015年から機能性食品表示がスタートしました。できたばかりの制度なので、アラビノガラクタンでどう取得するか模索をしています。機能性食品の表示には至っていませんが、2018年3月から、「毎日おいしく日向夏」という日向夏のエキスを入れたドリンクとして、大学と農協果汁の共同開発商品として販売をスタート。
閉経後の女性にボランティアしていただき、日向夏のドリンクを実際に飲んでもらうヒト試験も継続して実施。現在、機能性食品表示の取得を目指して頑張っています。

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